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「太七は、あれでも優秀なハートキラーだった」

夕方の賑わう商店街を歩いていると、二階堂が話し始めた。
こういう状況で、彼女から話し出すのは珍しい。
沈黙に耐えられない性格でもないだろうし。
しかも、何故永百済さんの話なのだろうか。

「私が見る限り一番中毒におぼれていたのは彼だった。無口で、冗談も言う人じゃなかったし、今の太七とはまるで別人」

俺も永百済さんが無口でクールな所など、まったく想像できない。
それよりも気になるのは、今、彼のことを話す二階堂の様子だった。
表情に感情があるというか何というか。

「私がハートキラーになりたて、つまり太七がハートキラーを辞めて間もない頃は、よくヒステリックになっていた。壁に穴開けたり、任務を放棄したり、やけになって自傷行為をしたり、・・私のせいで苦しんでいるんじゃないかって、いつも責任を感じていたの。でも今の太七見て、よかったのかなって」

気のせいだろうか。もしかしたら、

「あのさ、二階堂。お前、永百済さんのこと、好きなのか?」





地球が5秒静止した。
気づいた時、俺の視界は二階堂が投げつけた制カバンという障害物によって遮られていた。
痛い、ヒリヒリする。

「ばっっっっっっかみたい!決めた、もう貴方と余談はしない。最低限必要だと思った話しかしない」

鞄がペロリと俺の顔を剥がれた後、俺は何故か吹き出し、腹をかかえて笑っていた。
二階堂を含め、周りの人の視線が痛いが、自然とあまり気にならない。
久しぶりだろうか、こんな大爆笑。
いや、違う。
あの地獄の二日間が、長く感じただけなのだ。
どうやら逆に二階堂は、俺の安定剤らしい。

「ありがとう、二階堂」
「本当に、貴方にはたまに驚かされる。こんなに私の心を動かすの、世界で二人目よ」

一人目は永百済さんだろう。
同じ種類にされるのは良い気分にはならないが。
さて、二階堂が永百済さんをどう思っているのか、答えは保留か。
あの男には絶対負けたくないけどな!
・・・・あれ?


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